(2011年5月24日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
中国西部の重慶市にある世界最大のノートパソコン受託生産会社、広達電脳(クアンタ)の工場では今週、大型トラックが宏碁電脳(エイサー)のパソコンを数千台運び出す。消費者の目には見えないが、今回の出荷によって、世界のパソコン生産・物流分野では十数年ぶりの激変の時代が始まる。
上海近郊と、香港との境界線に隣接する地域にある既存の輸出生産拠点で人件費や地価が高騰し、労働力不足が起きていることを受け、世界最大級のパソコンメーカーと、これらの企業と取引する受託生産会社数社が中国内陸部に移転している。
重慶と成都に相次ぎ大規模工場・物流センター
既存の生産拠点では、人件費や土地代が高騰し、労働力不足も起きている(写真はフォックスコンの深セン工場)〔AFPBB News〕
パソコン業界は中国西部の重慶と成都に巨大な工場や開発・物流拠点を新設している。
出荷台数で世界首位のパソコンブランドであるヒューレット・パッカード(HP)と3位のエイサー、6位の華碩電脳(アスーステック)は重慶を選んだ。2位のデルと4位の聯想集団(レノボ)は、重慶から300キロ足らずの場所にある四川省の省都・成都を選んだ。
これを見て、HPの最大の生産委託先で、ほかの主要ノートパソコンブランドすべてに製品を供給しているクアンタも急ぎ重慶に拠点を設けた。
HP、デルのほか、アップル、アスーステック、ソニーから生産を受託する富士康科技(フォックスコン)は、重慶と成都の両方に拠点を新設。やはりノートパソコンの受託生産大手である仁宝電脳(コンパル)と緯創資通(ウィストロン)も両市に工場を建設している。比較的規模の小さい英業達(インベンテック)は重慶で事業を拡大している。
「(工場進出の)結果、我々は今後1年以内に世界最大のノートパソコン生産拠点になる」。重慶市内の新工場が立ち並ぶ両江新区の共産党幹部、フアン・チーガン氏はこう話す。
「業界の売上高は来年、総額7000億元に達し、1億台のノートパソコンを生産する見込みだ」。1億台と言えば、全世界で生産されるノートパソコンの3分の1以上に相当する。
中国南部を抜く世界最大の生産拠点に
成都も同じような野心を抱いている。成都市の投資促進委員会の次長を務めるリー・イー氏は、2015年に市内で生産されるノートパソコンが8000万台、タブレット型パソコンが1億5000万台に上ると試算している。
バークレイズ・キャピタルによれば、1億5000万台という数字は、2012年の世界のタブレット市場の2倍以上の規模だ。
パソコン業界は1990年代初頭以降、これほど大きな変化を経験していない。当時は台湾の受託生産会社が量産ラインを中国の東部と南部に移転し始め、東南アジアに拠点を置くサプライヤーからどんどん市場シェアを奪っていった。
中国西部では今、生産を急拡大させる条件が整った。HPが重慶で生産された最初のパソコンを出荷したのは昨年のこと。だが、HPが自社生産するパソコンは全体のごく一部で、フォックスコンを除けば、ほかの生産委託先メーカーは新たな拠点で生産する準備ができていなかった。
それが今では、クアンタの工場が生産を開始した。「コンパルとウィストロンも7月と8月に重慶で生産を始める準備が整う」と、エイサーの中国代表、オリバー・アーレンス氏は言う。エイサーでは、長期的には自社の世界パソコン出荷の50~60%を重慶が占めるようになると見ており、「第3四半期にはタブレット生産をすべて重慶に移す」とアーレンス氏は話している。
圧倒的な数を誇るフォックスコンは先行シフト
「iPad」の3分の1は既に成都で生産されている〔AFPBB News〕
アップルの「iPad(アイパッド)」の主要生産会社で、それゆえ数のうえで最も大きなインパクトを持つフォックスコンは、既に生産移管を始めている。
地元の政府高官によれば、世界のiPadの3分の1は成都で生産されており、残りはフォックスコンの伝統的な主要生産拠点である中国南部の深センから出荷されているという。
「フォックスコンは現在、成都で8万人の従業員を雇っており、今年末には10万人に増える。計画では、30万人まで拡大することになっている」と前出のリー氏は言う。
HPとレノボによれば、これらの新工場が焦点を合わせているのは現地市場だ。何しろ現在、中国のパソコンの50%以上が北京や上海から離れた小さな都市で売られている。
「中国の西部および中部のHPユーザーに近い場所へ生産を移すことで、物流が改善し、供給サイクルが短縮される。西部、中部のユーザーは、以前よりタイムリーかつ便利にHP製品を手に入れられるようになる」とHPは言う。
狙いは現地市場だが、世界的な影響も
だが、新たな生産拠点は世界的な意味も持つ。内陸部という地理を埋め合わせるために、重慶は大陸を横断する貨物鉄道網に接続された。今月はアントワープへの空輸貨物サービスが始まった。
3月には、それまでモスクワまでしかつながっていなかった貨物列車がオランダ、ベルギー、フランスに近いドイツ西部のデュイスブルクまで延長され、2週間前には、ロッテルダム、ハンブルクに次ぐ欧州第3位のコンテナ港であるアントワープまで延長された。
エイサーのアーレンス氏は、この路線によって、同社にとって最も重要な市場である欧州への輸送時間が2週間短縮できると言う。上海から船で出荷した場合、24~28日間かかるのに対し、重慶から鉄道輸送すれば12~14日間で済むと見られている。

















