Michael Riley(Bloomberg News記者)
Ashlee Vance(Bloomberg Businessweekテクノロジーライター)
米国時間2011年5月12日更新「 Sony: The Company That Kicked the Hornet’s Nest 」
インターネットの世界には、「ストライサンド効果」と呼ばれる現象がある。個人や企業が特定の情報を封じ込めようとすると、かえってその情報が拡散してしまう現象だ。この名称は、米著名歌手バーブラ・ストライサンド氏が、2003年にネット上に掲載された米カリフォルニア州の高級住宅街マリブの自宅写真の削除を求めて裁判を起こした騒動に由来する。この提訴の結果、より多くの人が、写真を掲載したサイトに殺到した。
今後、サイバーセキュリティーの世界で、こうした“やぶ蛇”効果は「ソニー効果」と呼ばれるようになるかもしれない。日本を代表する大企業ソニー(SNE)は4月、据え置き型ゲーム機「PlayStation」用のオンラインサービス「PlayStation Network(PSN)」や米子会社ソニー・オンラインエンタテインメントのネットワークに対して、ハッカー攻撃による被害を受けた。
同社のゲームや映画、音楽のサービスを利用する顧客は約1億人に上る。ソニーへのハッカー攻撃は、クレジットカード情報を含む顧客情報が流出した事件としては、米国史上2番目に大規模なものとなった。ソニーはオンラインサービスの無期限停止を余儀なくされた(本誌注:5月12日時点)。被害は、金銭的な損害とPlayStationブランドの信用失墜の両面に及んだ。被害の全体像が明らかになるには、数カ月もしくは数年かかるかもしれない。
著名ハッカーのホッツ氏と法廷闘争を展開
今回の件は、図らずも、ソニーが自ら招いた可能性がある。ほかのIT(情報技術)企業がハッカーと協力してでもセキュリティー対策に取り組んでいるのに対し、ソニーは訴訟や刑事告訴などの強硬手段でハッカーと対峙してきた。セキュリティー問題の専門家らは、ソニーはサーバーの重要な領域を適切に保護するどころか、監視すら怠り、車に鍵を挿しっぱなしにするに等しい失態を演じた可能性があると指摘する。
米インディアナ州パデュー大学のユージーン・H・スパフォード教授(電算機科学)は、米議会が5月4日に開催したソニーの情報流出問題に関する公聴会で、「ソニーは、全く危険性を検証せずにネットワークを運営していたように見受けられる」と証言した。
ハッカー集団がソニーのネットワークを標的にする引き金となったのは、ソニーが今年初め、「GeoHot」の通称で知られるハッカー、ジョージ・ホッツ氏(21歳)に対して強硬姿勢を取ったことかもしれない。ホッツ氏は17歳の時に、米アップル(AAPL)のセキュリティー防御の網をかいくぐって、同社の初代iPhoneのアンロック(SIMロックの不正解除)に成功し、iPhoneをどの携帯通信事業者でも使用できるようにした。これにより同氏はハッカーの世界で一躍注目の的になった。
ホッツ氏は2010年、ソニーの据え置き型ゲーム機「PlayStation 3(PS3)」のセキュリティーを破り、個人が作った自作ソフトや承認されていないソフトを動作させる方法を発見した。同氏がこの改造方法を自らのブログで公開したため、ソニーは情報削除を求めて同氏を訴えた。
米連邦地方裁判所は1月28日、ソニーの請求を認め、ホッツ氏や仲間のハッカーに対して情報掲載差し止めと、コンピューター端末などの提出を命じた。また3月には、米ツイッターや米決済サービス大手ペイパルから同氏のアカウント情報をソニーが取得することを認める決定を下した。
これに対して「ホワイトハットハッカー」と呼ばれる善良なハッカーとして、企業がセキュリティー上の脆弱性を発見する手助けをしているデーブ・エイテル氏は「仲間内で高い評価を受けているハッカーを活動停止に追い込むべく訴訟を起こしたことで、ソニーはハッカーの不興を買った」と見ている。米クレジットカード大手マスターカード(MA)などの決済サービス会社のウェブサイトを2010年12月に攻撃したハッカー集団「アノニマス」は、ソニーに対する報復攻撃を宣言した。
ホッツ氏への法的措置の後、2月には、ドイツの警察当局がPS3で自作ゲームを稼働させるソフトウエアを配布した別のハッカー、アレクサンダー・エゴレンコフ氏が住むマンションの家宅捜査に踏み切った。
グーグルなどはハッカーの懐柔を図る
ソニー以外のIT(情報技術)企業は、法的取り締まりではなく、ハッカーの技能を味方に付ける方策に乗り出している。例えば、米マイクロソフト(MSFT)はハッカーに対して、ゲーム操作システム「Kinect」のロックをはずすことを認め、優秀なハッカーの一部を会議に招待している。米グーグル(GOOG)はホワイトハットハッカーに報酬を支払い、欠陥がないか検証を受けている。
米セキュリティー対策会社モカナの上級アナリスト、ロバート・バモシ氏は「ソニーは他社と比べてかなり柔軟性を欠いている。ソニーのようなハードウエアメーカーは、専門家がセキュリティー上の問題点を指摘しても、あまり耳を傾けない」と語る。
セキュリティ情報を公開ウェブサイトに放置?
ソニーは3月31日、ホッツ氏との訴訟で和解。同氏はPS3改造情報を削除することに同意した。しかし、このころ既に、誰かがソニーのネットワークの脆弱性を突こうと暗躍していた。
ベテランのセキュリティー専門家ブレット・マクダネル氏によれば、ネットワークの脆弱性を体系的に調査する不正侵入検知ソフトが、3月3日午前7時9分にPSNのセキュリティー確認を実施したという。マクダネル氏がこの事実を知っているのは、ソニーが、システムが実行したすべての処理を記録するサーバーログの一つを、公開ウェブサイトに無防備に置いていたからだ。同氏は「こうしたログがパブリックドメインに置かれていたら、侵入者がシステムを解析する情報を手にする恐れがある」と指摘する。
マクダネル氏は「侵入者はそれほど入念な行動を取っているわけではなく、容易に入手できるプログラムを使用している。サーバーログを確認すれば、誰でも気づくような足跡があり、侵入は阻止できた。対策を講じなかったのはソニーの怠慢だ」と批判する。
4月15日、6週間に及ぶ調査の後、ハッキング侵入ソフトウエアの動作が急に停止した。マクダネル氏は「動作が止まったのは、探していたネットワークの脆弱な部分を発見したからである可能性が濃厚だ」と語る。
その4日後、ソニーは不正侵入の最初の痕跡に気づいた。同社の広報担当者は「当社を攻撃したハッカーは極めて高度な技能を持っている。当社はネットワークに重層的なセキュリティー対策を講じていた」と述べている。
この攻撃の犯行声明は出ていない。だが、ソニー幹部らは議会に、ハッカーが残したファイルに「We are legion」というアノニマスの標語が書かれていたと報告している。犯行者が誰であれ、ソニーはストライサンド効果の影響を念頭に置く必要がある。何しろ、同社は音楽レーベルを持ち、ストライサンド氏の版権も所有しているのだ。
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